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死亡推定時刻(朔立木)

最近読んだやつをつらつら。

死亡推定時刻は冤罪を扱った推理小説。
作者が法曹関係者という事で、創作でありながらそれを殆ど感じさせず、ドキュメンタリーのような圧倒的リアリティで司法の闇に迫る。警察の捜査や裁判の様子や果ては書類上の手続きまで、娯楽小説としては一見冗長とも思える非常に綿密な描写は、確実にその一助を成していた。
強いて言えば、「このことが後にあんな事態を巻き起こそうとは」の未来予知を使い過ぎとか、文章的な不満はちらほらあったが、そんなものが大して気にならないぐらいに引き込まれた。

こういった何の罪の無い人間が不条理に苦境に立たされる話は、何時自分の身に降りかかってもおかしくないということもあるのか、どうも涙腺に来る。読みながら何度ボロボロ泣いたか分からない。
特に母親が息子の為に良かれと思って起こした行動が完全に裏目に出て、その上挽回の余地が永遠に失われる辺りはこの上なく遣る瀬無い。

その上、ここで描かれる警察の仕事というものは杜撰極まりなく、吐き気を催さずには居られない。初めは罪を犯した人間を処罰する目的の為に組織された機構であったはずだが、効率化を進める内、それは次第に一犯罪に対して犯人を思しき人物を宛がう、という作業を行うだけで良しとするシステムを作り上げてしまっている。例えるなら、100回書いて覚えろと言って出された宿題をプリンタで印刷して提出するような本末転倒さを含んでいる。
別に警察は悪に徹して人を陥れようとそういった事を行っている訳では無いのだから逆に恐ろしい。

こうして全体の半分以上のページを使って被告人フルボッコにした挙句だっただけに、颯爽と現れた川井弁護士の存在は本当にヒーローに思えた。

容疑をかけられた若者が、正義感の強い弁護士と共に無罪を争うも、認められずに控訴する、という流れは、同じく冤罪をテーマとする映画「それでもボクはやってない」同様。別にどちらかがもう一方を下敷きにしたとかいう事ではなく、冤罪について描くと自然こういう構成に落ち着くんだろう。映画での「しかるべく」ほかの謎の言葉や警察のテクニックなどを解説してたりして、補完的に見ても面白い。
共にラストの客観的にはどう考えても正義と思われる努力が甲斐なく切り捨てられる様に覚える無力感は凄まじく、殆ど無いに等しいが0ではない希望も絶妙なところ。

「禍福は糾える縄の如し」って言葉は重いね。
  1. 2009/06/06(土) 20:32:41|
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