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忍☆忍1178ミリぐらい記念の妄想小説

あんまり引っ張ってもしゃーないしささっと流そう。
ひとつ言える事は、ガチで微エロというとんでもないアレだった前回ですら可愛らしく見える程にひどい所へ行ってしまっている危険な代物だという事だ。
忍☆忍894ミリぐらいまでの話を下敷きにしてるので、そこまで全部見てない人は読んじゃだめです。
ちょうど15000文字ぐらいです。



1 最悪にして至上の萌芽

ご飯、茗荷のお味噌汁、鰹の叩き、茄子のお浸し、冷奴――机の上には二人分の食事が並んでいる。その机の、目の前の食器を脇へと押し遣って作った頭一つ分のスペースに、私は突っ伏していた。
お腹からはぐうと腸の蠕動する音が聞こえる。しかし空腹による苦痛はピークを過ぎて、最早お腹が減っているのか減っていないのか良く分からず、食欲は湧かない。むしろ何か口に入れた瞬間に胃が拒否反応を起こしてしまいそうな程の嘔吐感すらある。その上、脳内に寄生虫が巣食っているかの如く、頭はきりきり痛んでいる。今まで味わって来た中でも最悪の部類の体調不良は、遍く下僕の所為だと思う。
うっすらと眼を開けると、転倒した視界の奥で、時計の短針は十一と十二の間を指している。毎日のようにサービス残業を嘆く下僕の帰宅時間は杳として知れないが、流石に日を跨ぐことは滅多に無い。つまり、いい加減帰って来ても良い筈だ。
――遅い。
苛々する。後片付けなんて全部下僕にやらせれば良いから、机を引っ繰り返してそのままベッドに沈み込みたい衝動に駆られる。しかし、それでは結果的に下僕の為に私の貴重な労力が水泡に帰した事になる。そんなエネルギーの無駄遣いはあってはならない。
流石にそこまで非合理的な行動は取らないにしても、このまま眠りに落ちてしまいたいという考えは、妥協案として現実的に採用の域に属していた。その場合にしても、この状況を見て勝手に色々と勘繰られるのは忌避すべき事態だ。何しろ普段自分の夕食は文字通り夕方に済ませているし、遅く帰宅した下僕に対しては「犬の餌じゃないだけ感謝しなさい」という言葉を添えて、その場で冷凍食品を解凍して与えている。比較的まともな料理を並べた訳はたまたま気が向いたからに過ぎず、私が食事に手を付けていないのはたまたま間食のし過ぎでお腹が減っていなかっただけに過ぎない事を、真っ先に説明しなければならない。
故にただこうして待ち続けるしかない。
しかし眠い。どうしようもなく眠い。
そして寝てはいけないという単調な思考は逆に睡魔を誘発し、私の体は夢と現の挟間へと吸い込まれて行く……。


2 有り得ざる在りし日の肖像

下僕は、夢を掲げていた。心底下らない、かつ、天地が引っ繰り返ろうとも実現不可能な――まだ重力の作用方向が突然反転する事の方が可能性としては大きいように思える――夢。
虚像極まりない未来を幻視しながらに、下僕は女の影を追い求め続けた。当然下僕のような変態に靡く女などこの世に存在する筈が無く、いかに下僕が奇跡を自由に操作する奇跡戦士と言えども、下僕に彼女が出来るなどという奇跡だけは永久に訪れる事は無かった。

……いや、厳密には、真実の様相は皮相の見解と少し異なる。
恐るべき事に、人の思慮思考は十人十色。故に常識では考えられないような事象も発起する。「下手な鉄砲も数打てば当たる」とはよく言ったもので、稀に、ほんとうに極々稀に、ほんの少し押されるだけで自らの牙城を崩してしまうような女もいた。
だからそんな女には、私が下僕に知れぬ所で「親類縁者子々孫々に至るまで安穏な人生を送りたければ下僕から手を引くように」と“優しく忠告”してあげた。私に抗う女もいるにはいたが、実際に少し痛い目を見せてやるだけで、皆顔面を蒼白にして下僕の許を静かに去って行った。それに関して等し並みに良心の呵責を覚える事など、私には無い。全ては彼女らの本当の幸福を想っての事なのだ。

月日は流れ、下僕は高校を卒業し、そこそこの大学に入学し、更にそこそこの企業に就職した。
その間実に約七年。下僕の姿勢は一貫していたが、一向に事態が好転しない事に対し、次第に絶望感を漂わせ始めた。私にとってそれは当然の帰結であり、そんな下僕を見ているのが面白くて仕方無かったので、それをネタに私は毎日のように下僕を詰っていた。

そんなある日、事態は急転する。
下僕は、夢を諦めてしまった。
人類史上稀にみる馬鹿である下僕も、流石に社会に出れば常識とか分別というものを弁えるようになったらしい。「幸福はいつも俺の傍に転がっていたんだ」と下僕は言う。意味が分からない。
同時に、下僕は私を高級レストランでの食事に誘い出した。
高層ビルの最上階から眺める夜景に見惚れつつ、暫しの間妙に浮き立った下僕の話を聞き流していると、急に神妙な面持ちで押し黙るから、何事かと思って見れば、下僕は小さな箱を開けて中を示していた。
「頼む、結婚してくれ」
あの日と同じ、酷くシンプルな言葉だった。そして、22年間一度も彼女が出来た事が無いのも頷ける、目も当てられない考え方の古臭さだった。テレビドラマの影響でも受けたのか知らないが、事前承諾も得ずにこんな事をして、もし私が断れば大金をドブに捨てる事になるという事も分からない、想像力の欠如した頭……。しかし、下僕は馬鹿だから、それが最良の手段であると妄信しているのだ。それで私を落とせると思っているのだから本当に救いようが無い。
だから――私は黙って左手を差し出した。彼の真摯な態度に心を打たれたとか、そういう訳では決して無く、ただ単に数十万は下らないであろうその商品価値に目が眩んだのだ。
その時の下僕の喜びようは、言語に絶する。始めの内は微笑ましくその光景を見守っていた周囲の客やウェイターも、次第に険しい表情を見せ始め、最終的に他のお客の迷惑になるからと、その場を摘み出された。顔から火が出るような思いだった。それでも尚にやついている下僕を気持ち悪く思ったが、金の生る木だと思えば許せない事も無かった。
私は下僕にその場で待つようにと言い残し、その足で質屋へと向かった。指輪の消えた左手と新たに得た札束で、幸せの絶頂から絶望のどん底に急転落下した下僕の頬をぺしぺし叩く様を想像すると、それだけで胸の奥がぞくそくと震えた。
程無くして質屋に到着し、その門を潜る直前、ふと思い立って左手を闇夜の頂に翳し仰ぎ見た。小さな小さなダイヤモンドが申し訳程度にリングの中に埋め込まれたその指輪は、下僕の甲斐性を表しているようで、しかし、ブリリアントカットは確りと眠らない街のネオンを反射して幻想的な煌きを放っていた。
……だからという訳では無いけれど、それをこのままの場所に保管しておくのも、悪くないかと思った。生活が逼迫している訳でも無しに、今直ぐそれをお金に換える必要も、別に無い。そう思った。

後日、私は下僕を連れて町役場に出向いた。指輪を受け取った事とは全く以ってこれっぽっちも因果関係は存在しないが、ただ下僕に掛ける生命保険の受取人になるには二親等以内の親族関係が必要で、その為には籍を入れてしまうのが最も手っ取り早かったから、それを届け出ざるを得なかった。全てはお金の為、仕方の無い事だ。
ただ、肝心の生命保険はまだ掛けられていない。どうせ奇跡の力を持つ下僕は病気や怪我を30秒で治療してしまうから自然死など有り得ないし、私より遙かに強大な力を有している現状、全力を賭した所でそう簡単に殺す事も出来ないので、当分保険金が降りる予定が無いからだ。今取れる最善の手段は全て尽くしたから、この問題は後回しにするしかない。下僕が下僕の癖に死ねと言っても死なない不義理な下僕である以上、やはり仕方の無い事だ。

その頃には既に諸悪の根源たる裏切りの忍者は下僕によって懲らしめられていたし、忍者学校の読み方が良く分からない部署によって恋愛狂気のウィルスに対するワクチンが開発されて、新たにウィルスに侵される者は居なくなっていた。忍者に残された仕事は逃げ惑う僅かな変蝶々を追い立てる、残党狩りのような物で、そんなビジネスに未来は無いように思われた。変蝶々の駆逐は兼ねてよりの私の目標だったが、最早私が直接手を下す必要は無く、他の忍者に全てを託しても変蝶々の存在しない世界の実現は時間の問題のようだった。このような世情にあっては変蝶々の存在は実に儚い物に見え、そんな奴らに対しては哀憐の情さえ覚えた。そしてそんなちっぽけな存在に執心した過去が虚しい物に思えた。
それよりも重要なのは、自分自身の心の内の問題に決着を付ける事だと思った。

私は辞職願を認め校長先生の居室へと足を運んだ。
校長はそれを受取ろうとしなかった。それどころか、如何に自分が私を好いているか涙ながらに力説し始めた。気持ち悪いので踏みつけて無理矢理辞職願は受理させた。
後から聞いた話、どうも外し忘れた左手薬指の指輪を目敏く発見していた校長の所為で、忍者学校はその後暫く寿退社だの何だの虚実混ぜこぜの噂話で持ち切りだったらしい。これは辛く苦しい戦いの最中だというのに、何が目出度いものかと思う。しかし他人にどう思われようと関係無い、自分だけが分かっていればそれで良いと思い、誤解の解消に尽力などはしなかった。

それからは、それまで以上に下僕を酷使する事を決意した。
まず下僕の所得は全て奪い取り、私の懐に入れる。下僕にはその内の1割も与えない。これにより私は労せずして生活する為のお金を手にすることが出来た。
代わりに私がやる事と言えば精々料理とか、洗濯とか、掃除とか、その程度。
暫くして下僕が毎日昼食に1000円近くもかけている事が判明し、それがどうしても許せなかったので、最終的には、私が朝食の片手間に作ったお弁当を持たせる代わりに渡すお金を当初の半額にする、という究極の虐待形態が完成した。
このように下僕には粗末な食事を与えるにも拘らず、下僕が身を粉にして働いている間に、私だけ女の子を誘って下僕のお金で豪華なランチを楽しむ、といった鬼畜のような所業を為した事も一度や二度では無い。
まさに主人と下僕、支配者と奴隷、搾取する側とされる側……。
一般の男女関係というものに興味は無いから良くは知らないけれど、男女平等や男女共同参画が叫ばれる昨今、まかり間違ってもこのような主従関係を夫婦などと呼ぶ事は有り得ないだろうと思う。

それでも下僕は嫌な顔一つせず働き続け、あまつさえ現在の奴隷生活がこの上なく幸福だとさえ言い切った。
随分と酔狂な男だと思う。
そして馬鹿で、変態で、その行動はいつも私の理解の及ぶ範囲の遥か上空を飛び去っていく……。
下僕は、わけがわからない……。
ほんとうに……下僕は……。
……。


3 全身逆鱗女

「ただいまー」
聞き慣れた声に、思考は一気に現実に引き戻される。現実のような夢のような現実を回想していた気がするが、夢特有の記憶の不安定さにより詳細は一瞬にして吹き飛び、何を考えていたか全く思い出せない。
そんな事よりも今為すべき事を考え、伏せていた身を慌てて起こす。
かちゃん、と音を立てて茶碗が倒れた。心臓がびくりと反応する。恐る恐る視線を下に落とすと、そこには倒れたご飯の茶碗と、ころころと転がるお箸。二本のお箸の内の一本はそのまま机の淵へと到達して床へと落下した。
冷えたご飯は固くなり、完全に茶碗の中に固定されているから、中身が零れたりはしていない。
ああ、お味噌汁じゃなくて良かった……。
そう思い、茶碗を立て直す。
続けて、お箸を拾おうと椅子を引いて身を屈めた、その時、何かがこつんと頭に当たり、同時に水音が静かに広がった。そのままの体勢で固まっていると、落ちたお箸の横に黄土色不透明の液体が滴り、小さな水溜りを形成し始めた。
目頭の奥で何かが込み上げた。

――ちがう。
今優先すべきはこんな事じゃない。覆水盆に返らず、起きてしまった過ちは全て忘れ去り、顔を上げる。片付けなんて後回しで良い。
下僕が部屋に入ってくる前に先手を打って言い訳――じゃなくて偶然の重なりについて説明しないと……。
迅速、かつ焦燥を悟られないような所作で玄関に向かう。

幸いにも、下僕はちょうど靴を脱ぎ終わり、立ち上がる所だった。思わず「おかえりなさい」などど口走りそうになる混乱した頭を心の中で殴り付け、下僕の許へと歩み寄る。
何から言えば良いのか、迷う。
つい夕食を作り過ぎてしまったから別に食べさせてやってもいいけど……。いや、カレーなどの不定形単品料理ならともかく、食卓には明らかに二人分を意識しないと作れないような料理が並んでいる。直ぐバレる嘘は逆効果だと思う。
私は食欲が沸かないから食べないけど……。いや、それは事実だけれども、そこは無理してでも私も食べないと、作った意味も食べるのを我慢していた意味も無い。
というか、目を背けたくなるような現在の食卓の惨状は、そのまま披露してしまって良いものなのかどうか……。
ええと、もうなんだかよく分からなくなってきた。
下僕が振り返ってこちらを見るので、とりあえず何か言わないといけないと思い、最終的に「何でもいいから食べろ!」と言う事に決めて、口を開く。
が、その行動は慮外の感覚により中断させられた。
――微かに漂う酒精の匂い

あらゆる思索は悠遠の彼方へと吹き飛んだ。
代わりに私の体の内部では怒りがふつふつと込み上げる。
「飲んできたの……?」
「ああ、付き合いで、ちょっとな」
そんなのは、嘘に決まっている。
下僕は酒には強い方らしく、足元が覚束無いといった様子も無ければ、顔に紅味が差してすらもいない。しかしその匂いは確かに私の鼻腔を刺激し、不快な感覚を与えている。ビール一、二杯、といった量では決して無い事は過去の経験から明らかだった。
「……私はてっきり働いてるんだと思ってたけど?」
「いや断れねえし、仕事の延長みたいなもんだよ。……あ、今日飯いらねえから、風呂沸いてる?」
そうだ、全部無駄だった。無駄無駄無駄無駄無駄無駄。何を頑張っているのか、何故頑張ってしまったのか、意味が分からない。なんて頭の悪い……。私が? いや、全部下僕が悪い。下僕の分際でそんな事が許されるとでも思っているのか……。
頭に一気に血が昇るのが分かる。
だが、下僕が連絡を入れなかったのは、以前私が「どっちにしたって遅いんだからいちいち電話するな」と叱ったからで、下僕が私の為に敢えてそれを口にしていないのもなんとなく悟った。それ故にどこに向けるべきか分からない怒りが発散の対象を求めて彷徨って、ぐるぐると私の総身を駆け巡る。

だから、私は静かに最上の怒りを込めた眼で下僕を睨み、軽く顎を刳る。
「下僕」
それは、幾度と無く繰り返された、合図だ。下僕は、下僕故にそれに絶対に従わなければならない。
下僕は、いい加減どんな正当性を孕んだ反論も、私の怒りを増長させる要因にしかならない事を学んだようで、溜め息交じりに襟足を掻きつつ、不承不承床に膝をつく。すると丁度下僕の頭が私の肩ぐらいの高さに位置するようになるので、私は下僕の胸倉を取り、高らかに音を立てて下僕の頬を平手で殴る。更に返す刀で殴る。振り出しに戻って殴る。更に殴る。寝ても醒めても殴る。飽く事無く殴る。際限無く殴る。また殴る。それでも殴る。殴る。殴る……。メトロノームのように揺れ動く下僕の頭が丁度十往復した所で、役目を果たした下僕の体はゴミのように投げ捨てる。
痺れる自分の掌を恍惚と見詰めて、そこから下僕に与えられた肉体的苦痛の軽重を想像して愉悦に浸る。闇に鎖された深い森の中へ徐々に光が差して行くように、すうと心が晴れ渡るのを感じる。
文句の一つも垂れずに進んで虐げられに来るその殊勝な態度に関しては、感謝の言葉の一つぐらいくれてやっても良いとさえ思う。
しかし――

「何かあったのか……?」
下僕は頬をさすりながら、恐る恐ると言った様子でそう口にした。それによってまた私の精神状態は下僕を殴る前へと一瞬にして舞い戻った。自分が原因の一端を担っているとも知らず、真面目腐って人の心配をしているのに無性に腹が立つ。
そもそも根本的には何も解決していなかった。夕食を下僕の目の前に突きつけて「どうしてくれる?」と問わない限り、何一つ変わらない。だが、そんな事は絶対にしたくない。私のプライドが許さない。
ジレンマ。
私は下僕の質問を完全無視してプイとそっぽを向いた。感情の昂ぶりを沈静化する方法がそれ以外に思い当たらなかった。
下僕を目の届かない所に追い遣る事を考える。
お風呂は廊下の奥。衣装箪笥はダイニングの隅……。
「お風呂でしょ? 着替え取ってくるから、そこで木偶坊人形みたいに突っ立って待ってなさい」
「え、いいよそれぐらい自分で――」
扉の取っ手に手を掛けた所で振り返り、文字通り本気で殺すつもりの殺気を込めて下僕を睨めつけた。
「入ってきたら、殺す」
「……はい」

扉と壁の間を擦り抜けるようにダイニングの中に入り、適当に寝間着をぶんどる。また扉を開けて下僕に歩み寄り、手渡し出来る距離に入ってから、態と床にそれらをばら撒いた。平常の心理なら無様に衣服を拾い集める下僕を足蹴にする所だが、それ以上は何をしても気持ちに変化は起きそうに無いので、下僕には一瞥も遣らずにダイニングへと戻った。


4 忍ぶ星(☆)の許に生れしは忍者

眼前に広がるのは惨劇の食卓。
とりあえず台布巾でブチ撒けられたお味噌汁を拭き取り、具を流し台の三角コーナーに捨てる。空っぽになったお椀と心の内の空虚さが重なって、酷く自分が惨めに思えた。
さっきよりも更に食欲は失せていたが、それでも食べなくてはいけないと思った。加えて、夕食を用意していた事は絶対に下僕に悟られたくない。だから、音を立てないように食事を済ませる事にした。
まず下僕の分の食事はラップを掛けて冷蔵庫の中に放り込む。
老化したご飯は温める必要があるが、音の消せない電子レンジは使いたくない。どうしようかと思案する内、酸味が食欲を増進する事を思い出したので、刻んだ梅干と共に電気ポットのお湯でお茶漬けにした。
食卓に着き、静かに手を合わせる。
普段まともに人に食べさせる為の料理というものを作っていなかったから、簡単なものばかりになったけれど、それでも猛暑の只中にあっても食べられるようなものを心掛けて、腕によりをかけて作った筈の料理からは、全く、何の味も感じられなかった。仕方なく、甚だしい苦痛諸共に無理矢理口の中に流し込んだ。
食べている内にまた眠気が押し寄せてきて、うつらうつらしていると食器の中に頭を突っ込みそうになった。いけない、と思い目をごしごし擦って眠気を覚まそうとした所、刺激し過ぎたのか涙が溢れてしまったので袖で拭った。

同様に隠密行動で食器を洗う。それらを乾燥台に並べている頃に下僕はお風呂から上がったようだったが、私の警告に忠実にそのまま寝室へ向かったらしく、全て思惑通りやり過ごすことが出来た。
湯船の栓を抜き、窓を開けて、歯を磨き……お風呂は先に済ませていたから、その他諸々のルーチンワークをこなした後、私も眠る事にする。
食べた直ぐ後に寝ると何者かがDNA改造手術を執刀しにやって来て人間を牛に変化させてしまうそうだが、そんな変態の対策を練っている余裕も無い程に眠くなってきたので、今日ばかりはお目溢ししてくれる事を願う。


5 婚星降る夜に婚人は呼ばう

下僕はベッドのこちら側半分を私に明け渡すように端に寄り、背中を向けて横になっていた。
だから私は迷わずベッドの空いた部分に、下僕と同様に背中を向けて潜り込んだ。それは“何があっても靡かない試練”の一環だったが、あまりにも長期間行った為に、いちいち「別に好きでやってるわけじゃないんだからね」と念押しするステップを挿入するのが煩わしくなり、現在は完全に形骸化している。下僕もそれに関しては重々承知している筈なので、敢えて何も言う必要が無いのだ。今やこの程度の事では思う事など何も無い。これは“何があっても靡かない試練”の成果と言って良いだろう。

カーテンを穏やかに揺らす夜気が冷たく、薄手の掛け布団を胸まで被るぐらいが肌に丁度良く感じる。
窓の外に丸く浮かび上がった満月は辺りを煌々と照らしており、電気を消していても寝室は仄かに明るいので、目が慣れれば昼間とさほど変わらない感覚で周囲は見渡せた。
とは言っても、特に起き続ける理由は無いので目を瞑る。
すると、逆に視覚以外の感覚は研ぎ澄まされ、それまで意識していなかった物の存在が明らかになり始める。
一定間隔で休む事無く時を刻み続ける時計の秒針、羽を擦り合わせて透徹した音色を奏でる夏の虫、真夜中だというのに遥か遠くで低い駆動音を響かせて走る大型車、そして、湯の匂いを微か漂わせて隣に横たわる男……

――いつも、それを意識する頃、私の腰に下僕の手が伸びる。
「やめなさい」
はじめは毅然として、強く。
しかし特に下僕が私を束縛している訳でも無しに、明確な拒絶の方法は他に幾らでもある事は分かり切っているから、下僕の手は依然として私の肢体の輪郭を静かに滑って行く。
「だめ……」
下僕の愛撫が全身に及ぶ頃には、私の声には色が混じり、吐息は艶を含み始める。
そこから先は、何を口走っているか、思い出したくもない。しかし、その内容が主人公の支配欲を満足させているという事実は疑いようが無い。
ただ、私は女として無上の喜悦に抗う事が出来ずに背を反らし、下僕の背中に爪痕を刻む――

……数週間前までは、それが常“だった”。
しかしいま現在、待てども待てども、私の身体に触れるものは何も無い。
――やっぱり……。
その場を移動しないように気を付けながら、もぞもぞと反対向きに寝返りを打ち、ほんの少し瞼を上げた。下僕の大きな背中が呼吸に合わせて拡がったり、縮んだりしている。
暢気なものだと思う。
あれだけ激昂して見せたのに、何故私が怒っているのか気にならないのだろうか。いい加減私の機嫌を取ったり、冷静に会話したりする為の術ぐらい心得ているだろうに、何もしようとしない。確かにさっきは完全無視を決め込んだけれど、一度駄目だったからと言って諦めるのか。下僕は只でさえ馬鹿で変態なのに、私が唯一評価した諦めの悪さすら失ったら、本当に、人間の屑以外の何ものでも無い。
暫し下僕が傍を離れる事で落ち着きかけていた怒りが、音も無く、波濤のように再び押し寄せる。
目の前の背中の肉を思い切り抓ってやろうかと思う。
実際に左手を背中の前に運んだ所で、しかし、その後の事態を推し量って思い留まる。背中を抓った想定未来の私は何も言わず、不満げに下僕を睨む。それは、ほぼ攻撃以上の意味を持たないが、この状況下で、ド変態の下僕が少ない頭でその意味をどう曲解するかは、想像に難くない。
それでも、鬱憤を晴らす為に攻撃を実行に移したいと思っている。
何故そんな理に適わない行為が頭に浮かぶのか。
私は……陵辱される事を望んでいる?
……違う。断じて、そんな事は、万に一つも、有り得ない。私は、私はただ――

ふと、今の思考が下僕に見透かされて妙な気を起こされているのではないかと急に不安になり、下僕の頭の方を見遣る。下僕に限っては、奇跡的に脳の電気信号が空気を伝播して別の脳に辿り着くなどの超自然的現象によって読心を可能にしていても何の不思議も無い。
私はゆっくりと起き上がって、ベッドの上で四つん這いになった。そして、急に襲いかかって来ても対抗する気構えを保ちながらも、恐る恐る下僕の表情を覗き見る。
下僕の眼は――閉じられていた。
下僕は、すぅすぅと寝息を立てて眠っていた。
それどころか、瞼の裏の眼球も静止しているように見える。
念の為、指を頬に突き立ててみたり、更に調子に乗ってぐりぐりと歯列の隙間に捻じ込もうとしてみたが、顔の筋肉は1ミリも変化しなかった。まだ下僕がベッドで横になってから十分程度しか経過していないのに、完全に熟睡している。
相当に疲れているのか。飲み会では気が休まらないという話も、強ち嘘では無いのかも知れない……。
なんだか、一人無駄にあたふたさせられたのは腹が立つが、流石に奇跡にも手心という物はある筈だから、睡眠中に読心などという理不尽は無いだろうと安心して、再び横になる。

それにしても、つまらない男だと思う。
会社に行って、会社から帰って、お風呂に入って、寝る……ただそれだけの生活。月並みな言い方をすれば、家と会社の往復。
下僕にとって家庭とは何の意味があるものなのだろうか。ただの素泊まりの宿でしかないのか。そんな人生を楽しいと感じているのか……。
少なくとも、私は、つまらない。
昼間は外出すれば現実から目を背けられるからまだ良い。しかし、夜に暇を持て余して、家の中で一人ぼんやりとテレビを眺めたりしていると、模糊とした不安感に苛まれて、胸の奥に異物が詰まっているかのような苦しみに心が満たされる。そんな時、下僕が椅子だったら、下僕が脚を乗せる為の台だったら、下僕が自動肩揉み機だったら、何をするでもなく多少は気が紛れるのに、下僕は何をやっているのかと思う。下僕の癖に、職務怠慢も良い所だ。私の為に働く事よりも下らない薄給の仕事の方が大事だとでも言うのだろうか。そんな事は、絶対に許せない。
私は目の前の背中の肉を――

際限なく繰り返される不毛な思考は次第に希薄になり、結論に至る事無く消失していった。


6 支配者の桎梏と僕の自由

冷蔵庫に仕舞った昨日の晩の食事を、食卓の上へ並べる。
その行為は下僕に対する抗議の意味合いも多少含んでいたが、もう余計な詮索をしたいなら勝手にすれば良い、という開き直った気分になった事が行動の要因としては一番大きい。

トースターに食パンを突っ込んで待っていると、どたどたと階段を踏む足音が聞こえた。
下僕はいつも遅刻かそうでないかのギリギリの境目に慌しく家を出る。下僕は馬鹿だから精神的なゆとりを持った行動というものを知らないのだ。タイムカードを押すのは時計が2分狂っている階が狙い目だとか、そんな事ばかり話している。
直ぐに部屋の扉が開いた。
「おはようっ」
無視する。機嫌が良い時なら応えてやる事もたまにはあるが、今私は怒っているからその必要は全く無い。
下僕は私の反応を気にするでもなく食卓に着くと、「いただきます」と言って、流れるように夕食だった朝食に手を付け始める。
トースターが焼き上がりを示す甲高い音を鳴らしたので、私も食卓に着き、取り出したトーストに苺ジャムを塗る。
下僕は喉に詰まらせないかとヒヤヒヤさせられる程の凄まじい勢いで料理を掻き込んで行く。どんなに急いでいても、一応朝食を食べずに出社するような事はしない。無論折角私が作ってやったものを残して行ったりしたら只では済まさないからそれは賢明な判断だが、今回ばかりは味わう事無く処理されていく料理を少し勿体なく思った。
暫くして、下僕はお味噌汁を一口啜って一息ついた。そして徐に私の方へと視線を移す。
そこで初めて自分がトーストに齧り付いたまま微動だにせず下僕の行動を眺めていた事に気付き、慌てて下を向いた。
「なんつーか、朝飯っぽくないよな」
私からすれば、何を今更、といった話だ。
「何か文句でもあんの……?」
既に口内でふやけていたトーストの端を齧り取り、慌しく飲み込んでから、言った。
「いや、いつもありがとな。愛してる」
何を言っているのか、聞き取れなかった訳では無いけれど、頭の中で数回反芻しなければその言葉の意味する所は理解出来なかった。
「……あんた、脈絡無さ過ぎ」
下僕は軽く笑みだけを返すと、再び箸を進め始める。きっとものの数分で全て食べ終えてしまうだろう。

私はトーストを半分残して席を立ち、キッチンに向かった。私の目算が確かならば、とろとろとトーストを齧っている暇は無い。下僕は一瞬横目で私の方を見遣ったが、取立てて気にしている様子は無かった。
シンク横には冷凍食品を詰め込んだだけのお弁当箱が用意してある。炊き立てのご飯を冷ます為に開けてあった蓋を閉め、ゴムで留めて、布で包み込んで端を結ぶ。
無意識的に行う事の出来る自分の手先の動作をぼんやりと眺めていると、脳の別の部分にさっきの下僕の言葉が響いて来た。
馬鹿じゃないの……? こんな時に、突然。
下僕は、いつもそうだ。どうしようもない馬鹿だから、思った事を思ったまま直ぐ口にする。そこには恥やら外聞やらの、一般人が持っていて然るべき概念は存在しない。女の子がいたら、それだけで猪突猛進、何も考えずに愛の告白を試みる。
私とは、正反対だと思う。自分の気持ちに対して言い訳をする事で自分を偽って、気持ちに蓋をして、自分の内の世界に閉じ籠る。そんな私とは。
だからこそ、たまに、下僕の事を羨ましく思う。自分の全てを曝け出して生きるのは、恐ろしい。騙され、裏切られた時、心に深く傷が付く。虚栄や欺瞞しか存在しない世界の中を生きる方が、よっぽど楽だ。
けれど、それは逃避しているに過ぎない。私の世界からは真実性が著しく欠落している。きっと、私と下僕は同じ世界を生きていないとさえ思う。だから、つまらない。
そんなのはもう懲り懲りだ。本当に、耐えられない。私は一体、どうすればいい……?
――思った事を、思ったままに……。
それは、案外に簡単な事なのだろうか。下僕を見ているとそう思えてならない。
なんでもいい。切っ掛けさえあれば、私にも出来そうな気がする。
例えば――このお弁当を手渡す時に。さり気なく、さも当然のように、日常の中に溶け込ませれば、きっと。
思い立ち、お弁当を手に取る。

「ごちそうさま」
下僕は食事を終えると脱兎の如く立ち上がり、脇に備えてあったネクタイを手馴れた動作で結び始めた。
私はそんな下僕の方へとそろそろと歩み寄る。
別になんて事は無い。淀み無く流れ去る何の変哲も無い日常の一部分に過ぎない。片手を突き出して、あらぬ方向を見遣りながら、言ってしまえば良い。
下僕の横で立ち止まり、片手でお弁当を持とうとした所、案外持ち難くて落としそうになってしまったので、やっぱり両手を添えて、お弁当箱を凝視しながら――
「おお、サンキュ」
丁度下僕がネクタイを結び終わって、無造作にこちらに手を伸ばす。指先がお弁当箱に触れる。嵩のあるお弁当箱を確りと掴む。お弁当箱が向こう側に引っ張られる。

……しかし、うまく声を出す事が出来ない。
そして、手渡す時に言うと決めた以上、手を放す事も出来ない。ただ酸欠の金魚のようにパクパクと唇を動かす様は下僕の目にさぞ滑稽に映っただろう。
お弁当箱を引っ張っていた力が弱まる。正面を向いていた下僕は首だけをこちらに向ける。瞬間的に顔が紅潮するのを感じて俯いた。
――言え!
心を奮い立たせるように自分自身に命令する。
それでもやはり、下を向いた唇は空を切るばかりで、何も成さない。肺の空気を放出し、声帯を振動させる、ただそれだけの事が、出来ない。
時間が経過すればするほどに、なおさら何の変哲も無い筈の台詞は切り出し難くなっていく。
一体、下僕は今の私をどんな表情で見ているのだろう。驚いている? 訝しんでいる? 呆れ返っている? 下僕は私同様に黙り、依然としてお弁当箱を掴んでいる事しか、私には分からない。
もう駄目だ。
私の思考は一転してこの事態から如何にして逃げ出すかという点に向かい始めた。
一体どうすれば自然な日常を演出出来るのか。まずお弁当をふんだくって床にブチ撒けそこに気を取られてる隙に下僕の目を潰し怯んだ所を蹴り倒して踏みつけるべきか、あるいは下手な小細工は使わずに寝室辺りまで一気に駆け抜けてそのまま扉に鍵を掛けて籠城すべきか……。
第一案と第二案の優劣を比較検討しつつ、第三案の生成にも尽力している時――

不意に、頭の上に質量を感じた。
後頭部の髪の毛を、包み込むように軽く、くしゃくしゃと撫でる。
それはきっと下僕の掌だ。
――触らないで!
ヒステリックにそう叫んで乱暴に下僕の腕を払い除けたい。更に表情を窺えないようにそっぽを向いて、今の不自然な態度の事など知らぬ振りをすれば、それはいつもの私に戻る絶好の機会になる。
しかし……理性の訴えかける最良の方法とは裏腹に、私の心は奇妙な安心感に包まれていた。
今なら何を言っても許される。そんな気がする。

「た……たまには、はやく帰って来なさい、よね……」
私は、ようやくお弁当箱から手を放す事が出来た。
別に……何て事は無い、何の変哲も無い言葉だ。そうしてもらえたら嬉しいとか、そういう次元のお話じゃなく、ただ下僕はクソ下らない仕事なんてしている暇があったら、私の身の回りの世話をするべきという、日常の中に溢れた単なる命令の一つに過ぎないから、適当に聞き逃してくれればそれでいい。
……にも拘らず、柔らかく私の髪を撫でていた下僕の掌の動きは急に静止するから、私は顔を上げる事が出来ず、固く目を瞑る。
本当にどうでもいいのに。みんな死ねばいいのに。特に下僕はこの場ですぐさま死ねばいいのに。下僕はきっとさっき私の頭に触れた時にまた何かしら奇跡の力でも使ったに違いない。そうでもなければ私がこんな気になるなんて事は有り得ない。私達がそれに抗う術を持っていない事を知りながら……。本当に卑怯極まりない男だ。心から死ねばいいのに。
……いや、無理なら別に死ななくてもいいから、とにかくこの場を離れて欲しい。もう後生だから、早く、はやくタチサレ! ココカラタチサレ!

叶うべくもない不毛な思考を続けた数秒の後、ようやく下僕の口から言葉が発せられる。
「いってらっしゃいのキスしてくれたらな」
「なっ……」
意味不明の言葉に思わず反応して頭を上げてしまう。
それを待ち構えていたかのように、下僕は掌を頭に乗せたまま親指で私の前髪を搔き分けるので、私の額は大きく露にされる。
更に間髪入れず、指ではない何か柔らかいものが、開かれた額に触れる。
何が起こったのかを私が理解する前に、下僕は微笑みながら私の頭をぽんぽんと叩いて、私に背を向けた。
「七時までには、この命に代えてでも」
下僕はお弁当箱を鞄の中に詰め込んで、玄関へと向かう。
「あ……いってらっしゃ……い」
普段は絶対に言わない言葉がなぜか口を衝いて出た。
「いってきます」
振り返らなかったので良く分からなかったが、下僕はまた少し微笑んだように思えた。


7 胸中秘めやかにして

スポンジに食器用洗剤を垂らして、それを手中で握り締めたり放したりする。十分泡が立ったら、お湯で軽く油分を流した食器をごしごしと擦る。
何とは無しに流している朝のニュース番組の合間のコマーシャルの音楽のリズムと、食器を擦るペースとが合致し、更にはハミングまで添えてしまっている事に気付き、慌てて周囲を見渡す。
誰も見ていない。少なくとも下僕が忘れ物だとか抜かしながら部屋の中に戻っているなどという馬鹿げた展開だけは無い。
改めて、思いきり眉間に力を込めつつ、それと同じぐらい両腕に力を込めつつ、BGMと重ならないようにゆっくりゆっくりと食器を洗う。
今朝は何も特別な事など無かったのだから、そうするのがごく自然だ。

ほんの数枚の仕事なので、泡を濯ぐ作業まで直ぐに終わり、次に水分を拭き取る為に、まず自分の手を拭く。
普通に拭くだけでは濡れたままになってしまうので、少し付けている位置をずらして、その指の部分を拭き取り、また元あった位置に戻す。結局あれから一度も外していない指輪。
特に外す理由も無いし、失くしたりしないような置き場所を考えるのも面倒だから、別にこれはこれで良い。
そう思って、左手薬指の根元にそっと手を触れる。
――0.2カラットのゴツゴツした感触が、私だけを守ると決めた彼の強さだとすれば

全ての食器を拭き終わると、ようやく眉間に込めた力を緩められる。
そして額を意識する事で、未だ前髪を正していないままだった事に気付く。
全く、ふざけた事をしてくれる……。
しかし、本当に約束を守って見せるのならば、クソ下らない行為も別に許してやらないでもない。
そう思って、前髪の掻き分けられた額にそっと手を翳す。
――仄かに残る柔らかい感触が、全てを包み込む彼の優しさだとすれば

綺麗に片づけたダイニングテーブルにミルクと砂糖を添えた紅茶を用意し、そこに腰を落ち着ける。
まだ夜の七時までは随分と時間があるので、ほんのり甘いミルクティーを嗜みながら、体がちゃんと覚醒を始めるまで、ぼんやりと物思いに耽る。朝の日差しを取り込む正面の窓の外には、悠々たる広がりを見せる蒼穹。その中を綽然と流れ行く浮雲は、そのまま時間の進行速度を投影しているかのようだ。
きっと、下僕に最も足りていないのは、生き急ぐ必要などどこにも無いという事に対する理解だろう。
そうだ……私は、ただ――

ただ、ゆっくりと話をする時間が、欲しかっただけだ。同じ食卓を囲み、他愛ない世間話に紛れ込ませながら、それを打ち明けるに十分な余裕のある、落ち着いた時間……。
毎度毎度枕元で名前の候補を語っては私をうんざりさせていた下僕の事だから、いざそれが現実化するとなった時の反応など、いい加減想像がつくけれど、家の中であれば誰の迷惑になる訳でも無しに、どんな過剰反応だろうと許してやろう。
そう思って、まだ外見には殆ど変化の見られないお腹に、しかし自然と溢れ出す愛おしさを止められないままに、そっと手を添える。
――微かに感じる新たな命の胎動が、私達の未来に齎すものは、果たして……?


<オワリ>
  1. 2010/01/31(日) 17:55:25|
  2. 忍次創作
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

せ……1178ミリ!?!? そんなにも長いことアニメは続くのか……。
って、いやいやいやいやそうじゃなくて!

こ、これは……! 何の言い訳もできないレベルに到達してるよななこ……!
いや言い訳とかそんなレベルじゃねぇ!
っていうかお腹の愛おしさって……ええええええええええええ!?


どう見ても夫婦生活です。本当に(ry
すさまじい破壊力を持ったすごいSSでした。ありがとうございます。
  1. 2010/01/31(日) 19:25:09 |
  2. URL |
  3. にこ #7I7uLWho
  4. [ 編集]

>>にこさん

こんだけ防壁貼ってんのに……何回注意書き無視したら気が済むんだ! にこさんのバカー!


うん……タイトルは『しゅじんこうと ななこの らぶらぶ しんこん せいかつ』(仮称)だったけどあんまりにもあんまりなので上には書けなかった……。

これも靡かない事を証明する為にしているに過ぎないからまだ言い訳はできるよ!
  1. 2010/02/01(月) 00:24:09 |
  2. URL |
  3. 仮称 #-
  4. [ 編集]

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